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これのつづき

私が、突然おちいってしまった
不安。
恐怖と言っても過言ではなかったかもしれません。
それは、「声」です。
もっと具体的に言うと、隣のグループの声。

30分刻みで進んでいくこのDIDのワークショップは
遠くの方で前後の会話は確かに聞こえてはいました。
決して広くはないであろうこの空間、
仕切ってはいても、完全に他の雑音(と言っていいのか)を
シャットダウンすることは不可能です。

それまでは、この一緒に回っていた7人の声だけが、
私の目の代わりとなり、
状況を把握し、コミュニケーションを図り、
どの作業も上手くこなせていたのでした。
え「…から、こち… ドリンク… 」
えもやんの指示が耳に入りません。
隣のグループも、すでに素晴らしいリレーションシップを築き、
和やかに話しているのです。

怖い!
私は本気で怖くなりました。
えもやんの声が聴こえない。
周りの状況が分からない。
ここに何がある?
椅子は分かったけど、テーブルはあるの?
何を飲むの?
どうやって飲むの?
やめて!
もうしゃべらないで!

…絶望的な不安感は、
それがやって来た時と同じようにまた、
あっけなく去って行きました。
つまり、隣のグループが席を立ったのです。

心地よい沈黙が再び訪れました。
え「ビールと、サイダーと、オレンジジュースがあります」
えもやんの声がクリアに響きます。
そして、私は気付かされました。
これは現実だということです。
このワークショップはあくまでお遊び。
現実の世界には、もっともっと、この何十倍も
雑音があふれているのです。
その中から自分に重要な情報だけを
ピックアップして生きていく。
そうしなければ生きていけない。
それが視覚障がい者の運命なのです。

グループでは、利きビールが始まっていました。
「これは…ドライかなー?」
「いや俺は一番搾りだと思う」
「案外発泡ってことはない?」
私は、冷たいサイダーで乾いた喉をうるおしながら
その絶対的事実を真っ暗やみの中で見逃さないように
必死に神経をとがらせていました。

え「どのくらい時間が立ったと思いますか?」
和やかな会話の中、えもやんが切り出しました
そうか。
状況の把握ばかりに気を取られて、
私は、時間の感覚を完全に失っていました。
「30分…くらいかな」私は言いました。
誰かが言います「1時間は経ってないかな」
うんうん。おおむねみんな同意します。
え「正解は、1時間20分です。」
…。
ええええええええええええ?
まじか!
まじか!
そんなに経ってたか!?
ありえない!
考えられない!
さっきここに入ったばっかじゃん!
え「残念ですが、そろそろ終わりの時間です」
私はどうしても信じられなくて、
茫然と、えもやんの方ばかりを見つめていました。

最後に通された部屋は、
薄い、本当に薄い明かりのついている、
ラウンジのようなところでした。
え「真っ暗なところから急に明るいところに行くと、
目が慣れていなくて、気分を悪くすることもあるんですよ。
だから、まずはこの薄明りの部屋で目を慣らすんです」
その薄明りは、
本当にまぶしかったです。
目が痛いほどまぶしかった。
不思議な気持ちです。
みんながゆっくりと話し始めました。
どうしてここにきたのか。
今日の経験はどうだったのか。
そして、えもやんがどうして視力を失ったのか。
えもやんがどんな風に感じて、
健常者に対して、どうしてほしいのか、どうしてほしくないのか。
なんだか戦友のような不思議な仲間意識が
私の中には生まれていました。
見たこともない顔ばかりの中で、
心を開いて話をしていることが、ただただ不思議でした。

本当に信じられないことばかりが起こりました。
想像していたDID。
障がい者の方がアテンドしてくれる、
知的好奇心をくすぐるアトラクションだとばかり思っていました。
実際には、私の想像もしなかった感情が
次々に湧き起こりました。

私は、暗闇も、思ったほど悲観的ではないと思いました。
そして、思ったほどラクでもない、と。
一見矛盾した話ですが、正直に言葉にすると、
こういうことになってしまうのです。
目が見えないのは絶対困ると思っていましたが、
コミュニケーションを取る事ができるのなら、
暗闇の中はそう悪くもないと
素直に思いました。
視力を失っても
聴力を失っても
心さえ失わなければ、楽しく生きて行くことはできる。
辛いことも多いけど
だからこそ分かる事もあるのだと、そう思いました。

もうひとつ、見落としてはいけない大事なこと。
DIDには、私が見えない代わりに、
私も誰にも見られていないという、おかしな安心感があるということです。
現実の、視覚障がい者の方の生活には、それは伴わない。
逆に、自分でも認識できない「視覚」を、
社会にいる以上は意識しなければならないということです。
この苦労はやはり、想像をはるかに超えるのでしょう。

え「僕は3歳の頃に視力を失いましたが、
パトカーとか、救急車の形は知ってるんですよ。
多分、好きでよく見てた、記憶が残っているんでしょうね」

それは私では感じることが一生できないであろう、
本当に不思議な感覚です。
おばちゃんは、えもやんを大好きになりました。


DIDの最後に、その薄暗がりの部屋でえもやんは言いました。

「えもやんの声の方に来てください…と言いたいところですが(笑)」

それを聞いて私はハッとしました。
現実の光の中に戻って来た私たちと対照的に
その暗闇が彼の住む場所の全てなのだ、だということ。
その圧倒的な現実を、いやがおうにも見せつけられた気がしました。



彼が、

その薄闇に少し足を踏み入れ、

笑顔で私たちに手を振ってから、

やっぱり真っ暗な世界に向かってくるりと背を向けて行ってしまったような気がして

私は

何とも言えない気持ちになって

出口に向かうその光の階段を、

ゆっくりと上がって行きました。


おわり
(ト)

追記:
もし上記読んで、気分悪くされた聴覚障がい者、視覚障がい者の方がいたら
ごめんなさい。
でも、私の素直な感想でした。

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青空トランプ

Author:青空トランプ
青空トランプ:夫婦ユニット。サブメンバーに、長女コロ(中1)と長男ぐわー(小5)がいます。
そんな青空トランプを、20の質問で紹介します。

【青空☆太郎】

出身地:宇宙
職業:世界を股に挟むえせサラリーマン
趣味:最近は主に東欧の大衆音楽、例えばロマ(ジプシー)系やクレズマーの辺り
特技:誰に対してもあつかましく振舞う
好きな食べ物:カレーかラーメンか迷ってるフリをしつつ本当に好きなのは握り寿司
好きな映画:ここ最近なら間違いなく『先祖になる』だね
尊敬する人:タモリ(『ブラタモリ』復活希望)
抱きたい人:宮崎あおいちゃん(せっかく離婚したんだから俺んとこに嫁に来なさい)
神:JB、ジミヘン、コルトレーン(このチョイスに迷い無し)
永住したい場所:東北か東欧か東南アジア
1ヶ月休みがあったら:東北でボランティア&観光(まだまだ行き足りない)
3億円当たったら:1億は寄付して、残ったカネで防音設備の整ったスタジオ付きの家を建てて楽器を買いまくるね
明日死ぬとしたら:慌てて般若心経を覚える
今一番興味があるのは:クレズマーとチンドンの関係性
子供以外の宝とは:あごひげともみあげ
自分を動物に例えたら:インドサイ
相方のいいところ:他人にでも感情移入できるところ
相方の悪いところ:他人にでも感情移入しがちなところ
相方を料理に例えたら:火鍋と砂鍋が半々のやつ(仕切りは陰陽風)
世界に向けてメッセージを!:打倒風評被害!


【花札(仮)すずき】

出身地:長野県長野市
職業:主婦業を全力で。
趣味:下ネタ。
特技:落ち込むこと。
好きな食べ物:友人の旦那が作るダシ巻き卵。こないだ久々にありついた♡甘さと出汁とフワフワ具合。ケーキかよ!?安定の旨さ。嫁への愛を感じたわー。
好きな映画:『クンドゥン』『JSA』
尊敬する人:もちろんダライラマ14世。すごいオジサマですよ、この人は。
抱かれたい人:吉野寿様。せめてデートできるなら、一緒にダイアログ・イン・ザ・ダークとか行って、吊り橋効果狙いたい。
神:小林賢太郎。神と書いてけんたろうと読む。
永住したい場所:シェムリアップ、ウブドゥ、チェンマイ
1ヶ月休みがあったら:タイのビーチでぐだぐだしたい。
3億円当たったら:半分寄附、半分貯金して老後に旅しまくる。
明日死ぬとしたら:家族と美味しいもの食べて過ごします(;_:)なんか泣けてきた…
今一番興味があるのは:TED。おっさんテディベアじゃなくて、プレゼンの方のね。
子供以外の宝とは:ラーメンズDVD&文庫本コレクション。
ラーメンズ好きな女はうざい?けっ知らねー。
自分を動物に例えたら:スナフキン亜種。おさびしやま~に~♪
相方のいいところ:博識。理論的。私の支離滅裂な話をよく聞いてくれるという意味で、ガマン強いところ。
相方の悪いところ:ブログ、この半年で1個くらいしかあげてませんよ。どうしました?
相方を料理に例えたら:満漢全席。うんちく多そうだ。
世界に向けてメッセージを!:最良の母親とは、まあまあの母親である。〜児童精神科医 ドナルド・ウィニコット〜

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